Million Onion Hotelについて


『Million Onion Hotel』とは、ゲームデザイナーの木村祥朗氏率いるゲームスタジオ「Onion Games」が制作したスマートフォンアプリ用のゲームです。価格は480円。
対応OSはiOS/Android、2017年10月16日にiOS版が、同年11月1日にAndroid版が公開され、現在では全世界で配信されています。


公式サイト
http://oniongames.jp/milliononionhotel/jp/

iOS
https://itunes.apple.com/jp/app/million-onion-hotel/id1225091207

Android
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.oniongames.hotel


本エントリではこの『Million Onion Hotel』について取り上げたいと思います。
ただし、私は「ポリポリクラブ」というWeb動画番組(と呼べばよいのだろうか)で木村氏を知ったニワカ木村ファンであり、かつラブデリック時代の『moon』等過去に木村氏の関わった作品群はほぼ未プレイのため、そのあたりと絡めた言及はありません。悪しからず。


また、ゲーム内容の説明や攻略等も省きます。
このゲームのチュートリアルはとてもあっさりとしたものなので、多くのプレイヤーはなんだかよくわからないままいろんな敵やギミックに対面することになるのですが、それらへの対処法を試行錯誤しながら自分で見つけるのもこのゲームの醍醐味の一つだと思っているためです。


そこでゲームの内容から一歩引いて、気づいたことなどを書いてみたいと思います。

『Million Onion Hotel』に込められた昔のゲーム・アニメへのオマージュ

『Million Onion Hotel』には、昔のビデオゲームへのオマージュと取れる要素がたくさん入っています。
具体的には



このあたりのものが顕著に見られるように思います。
※写真は『ALL ABOUT NAMCO ナムコゲームのすべて』(電波新聞社 昭和60年10月5日発行 昭和60年10月25日 第3刷発行 定価2,500円)です。


例えば、宇宙へ行くと何故か出現するフルーツは、ナムコパックマンへのオマージュでしょう。



頑張って並べてみましたが、ちょっとわかりづらいので別の画像で。



※前出『ALL ABOUT NAMCO』P.22-23より引用
左の誌面に並んでいるのがパックマンに登場するボーナスアイテムたちですが、意外と被ってないのに驚きました。ホテルに出てくるバナナ、ブドウ、スイカパックマンには出ないんですね。それと、調べてみて気づいたのですが、パックマンにベルがあったのも驚きでした。ベルの元ネタはてっきり『TwinBee』あたりかと思っていたので。


また、「オニオンイーター」の元ネタはおそらくパックマンそのものなのでしょうが(もしくは単にスマイリーマーク?)、私はむしろ『バラデューク』の「バガン」を連想してしまいます。



※『ALL ABOUT NAMCO II』(復刊版)P.10より引用
この子ですね。


この他にも「ホテルの外観が『マッピー』屋敷を連想させる」というのは多くの方が感じたのではないでしょうか。



これもちょっとわかりづらいですが、屋根の所の窓の形などはほぼそのままですね。


また、プレイ中にホテルの屋根の窓から出てくる「窓の人」は、逆光によるそのシルエットの姿がなんとなく任天堂の初期のGAME WATCHに良く出ていた主人公の人を思い出させます。



実機が手元にないので模写しましたが、こんな感じの人ですね。


あと、この間のデジゲー博で頒布されていたミリオンオニオンホテルの薄い本で言及されていましたが



#左がデジゲー博のカタログ、右がホテルの薄い本


この本に出てくる「フライングマシン」というのはコレのことです。

遙か昔に放映されたNHKアニメ『未来少年コナン』に出てくる乗り物ですね。


あと、少し話は逸れますが、『Million Onion Hotel』のグラフィックデザイナーである倉島一幸氏がすこし前にツイートされていたこれを見て

https://twitter.com/kurashimakaz/status/925687577960521728


これを思い出した人も多いのではないでしょうか?

ちなみにこの『未来少年コナン』は今観てもすこぶる面白いので、興味のある方は観ると良いかもしれません。


あとはミラクル起こすと出てくる羊飼いのあの人は『アルプスの少女ハ●ジ』に出てくるあの人に似ているし、ゲームを進めるとゲットできるカードの中には『機動戦士●ンダム』ぽいものもあったりします。


他にも私の知らない何かのオマージュがあるかもしれません。プレイしている方は是非探してみてください。

薄明の表現


『Million Onion Hotel』は昔のビデオゲームのようなドット絵の持ち味を活かしたゲームですが、なぜかその多くの絵に「ぼんやりと滲むような光の表現」が加えられています。
オニオンたちはみんなぼんやりと発光していますし、画面上の残りタイムやLV/SCORE表示の文字にもドットのエッジの周りに滲みがかかっています。
特に美しいのは、「窓の人」が出てくるときの窓明かりの滲みです。



これですね。ドット絵表現の真逆を行くようなこの演出は素晴らしいと思います。


どこかのゲームサイトのレビューで「輝度を落とした色調のデザインで目に優しい」みたいな感想が上がっていましたが、言われてみると確かにこのゲームは全体的に薄暗い色で構成されています。


薄い本をゲットした方は知っていると思いますが、このゲームには常に「ある半透明のイメージ」が画面全体を覆うレイヤーとして重ねられています。
ゲームの画面をよく目をこらしてみれば、おそらく誰でもその存在に気づくことができると思います。特に画面の左右の端や左下のあたりを見るとわかりやすいです。



矢印の先にやぶれた紙の端のようなものがみえるのがわかるでしょうか?


私はその存在に気づいたとき、最初はバグかと思いました。そして、私はたまたまこのゲームがリリースされる前に「タマネギゲーム遊び隊」の第一陣として本アプリのテストプレイに参加させていただいていたので、「これ、なんか変なレイヤーが挟まってますよ」と、報告しようかと思ったくらいです。


しかし、しばらくして「どうやらこのイメージは意図的に入れているものらしい」ことに気づきました。
ただ、私にはこのようなイメージをあえて画面にかぶせる意図がわからなかったので、私なりにその意図を想像してみることにしました。


私は最初、画面左下の「縦に細く切れ込みのような明るい部分が入っている箇所」を、「薄汚れたガラス窓を指先ですっとぬぐったような表現」だと想像しました。なにか、そういう汚れた窓からこの世界を覗き込んでいる、という演出みたいなものなのかなと推測したんですね。
そして私はそこから場末の酒場のような薄暗い空間を連想しました。大人のムードが漂う、暖色系の明かりで照らされた空間です。そこでは、どんなあかりもぼんやりと滲んで光っています。そこまでイメージしたら、なんだか筋が通っている気がしてきました。ドットの滲みの表現と自分の想像したものがうまくマッチしているような気がしてきたのです。


私は木村氏と世代が割と近い人間ですが(私が2つ年下)、私の子供の頃のゲームセンターには、喫茶店やバーのような、薄暗い感じの場所が結構あったように思います。そして、テーブル筐体にはめ込まれたブラウン管から表示される当時のビデオゲームのドット絵は、そのブラウン管によって隣接されたドットの色が綺麗に滲んでいました。今でこそモニタはLCDに置き換わり、ドット絵はくっきりとしたエッジが表現可能になりましたが、昔のドット絵はみんな色が滲んで見えていました。


『Million Onion Hotel』のドットの滲みは、もしかしたら、そういうものへのオマージュなのかもしれません。

何かを発見することの楽しさ


『Million Onion Hotel』は比較的シンプルなルールのゲームです。しかし、そのゲーム体験は、なかなかカオスに満ちています。
特に宇宙に移動してからのカオスさがヤバいです。私が初めて宇宙へ行ったときは、湧いてくるオニオンたちをタッチするのに精一杯で、そこで何が起こっているのか、ほぼ全く認識できていませんでした。
しかし、何度も何度もプレイするうちに、慣れてくるのか、だんだん何が起きているのかわかるようになってきます。そうすると、プレイにも余裕が出て、いろいろなことを試すことができるようになったり、スコアを伸ばすコツがわかってきたりします。
良くできた映画・マンガ・小説などは見る度に発見があったりするものですが、このゲームもそれと同様に遊ぶ度に発見があります。
逆に言うと、遊ぶ度に新たな発見があるくらい、いろんなものが詰め込まれています。
私は既にカードをコンプリートしていますが、まだ見たことがないものがあったりします。


何かを発見することはとても楽しいものです。倒し方がわからなかった敵の倒し方がわかったり、今まで何気なく発動していた「あること」の発動条件が判明したりしたときは、頭に稲妻が走ったような快感が得られます。そしてそれによってさらにゲームをうまくプレイできるようになるため、さらに楽しさが増していきます。


そういえばドラクエ6は、テーマが「発見」でした。作成者側があえてヒントを用意しないことで、ユーザに発見させる楽しみを提供していました。


『Million Onion Hotel』にもそのような「発見」の楽しさが詰まっていると思います。

終わりに


一見ライトなパズルゲームに見える本作ですが、遊んでみるとイメージは大分変わります。
それは、どちらかというと、昔のビデオゲームを遊ぶ感じに似ています。
もぐらたたきxビンゴというシンプルなルールの本作ですが、私はスマホをテーブルに置き、両手を使っていつもプレイします。マルチタッチが効くので、両手でプレイする方が遊びやすいのです。
また、ボス戦などはかなり白熱するため、やはり腰を据えて遊ぶのが前提の作りになっているように思います。スマホゲームなどは電車の中で気軽にプレイする方も多いと思いますが、このゲームに関しては電車の中で遊ぼうとは私は思いません。
じっくり腰を据えて、夢中になって遊びたい人にお勧めしたいゲームです。


あ、最後にとても重要なことを書き忘れてしまっていたのでひとつだけ。
私はあの、デモに入る前に挿入される、渋いこの掛け声が大好きです。


「オニオンターーーイム!!」