ジャージ救出大作戦

少し前に買って着ていて、一度洗濯したジャージがどこかにいってしまっていることに、洗濯物を干している途中で気づいた。あれって確か、干したけど乾かなくて、次の晴れた日に会社行く前に干したままにしてから見てないような……と記憶をたどっているうちに、私の視界になんか変なものが映ってるのに気づいた。私は自分の部屋(アパートの2F)のベランダからそれを見下ろした。それはアパートと、裏の使用されていない駐車場の隙間に植わっている植木(大きな葉っぱ系)の葉っぱの上でひどい有様で放置されている私のジャージだった。私はベランダから身を乗り出してジャージまでの距離を目で測った。ベランダの手すりからジャージまでは2メートル近くあった。また、高低差は1.5メートル弱、地面からジャージまでの高さは2メートルくらいだった。アパートの敷地と駐車場の間にはフェンスがあり、それに登れば楽に取れるだろう。しかし、そのフェンスは駐車場側の地面に設置されており、駐車場とアパートの地面には高低差が私の身長(1.6m)くらいあった。フェンスに登るにはアパートと向かいの家の庭との隙間のスペースに入り込んで自分の頭の上から生えているフェンスに飛びついて登る方法があるが、そのスペースに入り込むには、向かいの家の入り口から回り込むように庭に忍び込んで入るか、一階の人の部屋に入れてもらってそのスペース側の窓から出るしかない。それ以外には駐車場のさらに向こうのこれまた使われていない駐車場の向こうの道路沿いの閉じられたフェンスをよじ登って超えて、がらんとした駐車場を横切ってこちらまでたどり着くしかない。そこは閉じられた視界をさえぎるもののない空間で、周りを住宅が囲んでいる。そこは普段誰も入れないようになっているので、広い空間なのにいつも人気がない。そんなところを歩いていたらもの凄く目立つし、確実に不審な人に間違えられるだろう。どうしよう。向かいの家か下の人に事情を話して下のスペースに入れてもらうか、不審者に誤解されるのを覚悟して駐車場を突っ切るか。……どっちもやだなぁ。でもジャージが。ジャージが助けてって泣いてる(ような気がする)。ああどうしよう。助けなきゃ。何が何でもジャージを助け出さなきゃ!(うるさいよ)
で、うちには以前引っ越したときに買ったけど短すぎて使えず放置してある物干し竿があるのを思い出した。3mくらいある竿なのだが、ベランダの竿掛けに引っ掛けるにはちょっと長さが足りなかったのだ。私はそれを引っ張り出した。そして駐車場側の窓をあけて届くかどうか確認してみた。なんとか届きそうだった。でも先に引っ掛けるような部分がないので、うまく引き上げられるかどうか微妙だった。でもやるしかない。わたしは窓から身を乗り出し、注意深く長い竿を窓から引き出してから、今度はジャージに向けて先端を下ろしていった。葉っぱとジャージの隙間に竿を差し込んで引き上げてみる。よじれていたジャージの足がわずかに持ち上がるが、すぐ滑り落ちて違った風によじれた。これはちょっと埒があきそうもないなぁ……と思いつつ竿の先端でジャージをいじっていたら、やがてジャージの下からジャージと繋がっているハンガーが姿を現した。ハンガーはプラスチック製で8ミリくらいの太さの棒を曲げて作ったような形のものだった。よくある安いハンガーだ。でも竿に引っ掛けられるよう上端がくるりと曲がっている。この曲がり具合が竿の太さにぴったりフィットしそうだった。しめた、これならこの曲がったところに竿の先端を差し込んで引っ掛ければ……。私はそれを実行した。そして引っ掛けたまま先端を自分より高く持ち上げた。ジャージをぶら下げたハンガーは、なんとか竿の先端に引っかかったまま空中に持ち上がった。私はその竿の傾きを保ちつつ、注意深く竿を手繰り寄せていった。だんだんと近づいてくる私の薄汚れたジャージ。ああ私のジャージ!(うるさいよ)
私はこうしてジャージを救出した。そして私はもう一度洗濯機を回した。