空間を描く

空間を描けるようになりたいと思いつつ何もせずずるずる過ごしてきてしまったので、今更だけど昔住んでた社宅の景色とかを思い出しながら描いてみたりしている。
その社宅には私が生まれてから10年くらい住んでいたので、隅々まで覚えているような気がしてたんだけど、実際絵に起こそうと思って細部を記憶から手繰っていくと、びっくりするくらい覚えていないのに気づかされる。仕方ないので社宅の見取り図から描いてみるも、やっぱり覚えていないところがどうしようもなく白い空間として残ってしまう。ここにブランコがあったのは覚えてるんだけど、その周りに何か他の遊具がなかったっけ? 砂場があったんだっけ? ジャングルジム? 雲梯? 自分が遊んだ遊具は覚えているんだけど、その周囲にあったはずの、私があまり遊ばなかった遊具の記憶が飛んでいる。自分の住んでた社宅の家の見取り図もかなりあやしい感じにしか描けない。部屋と部屋のつながり方は覚えているが、部屋の広さとか廊下の幅とかトイレの狭さとかそういう細部が思い出せない。家の外側の景観すらろくに描けない。こうなると、カメラを持って昔住んでた社宅まで赴いて、辺りをぐるぐる散歩したいところだけど、もう当時の社宅の景観は存在しない。数年前に訪れたとき、敷地そのものは残っていたんだけど、中の建物が壊されて更地になってしまっていた。私が描きたい風景はもう私の記憶の中にしか存在しない。
それでもだらだら記憶を手繰っていくと、覚えていることから自然と導き出せる情報というものがあることに気づく。たとえば、社宅の一軒家の敷地は南北に長い長方形であり、北側と南側の2方向から入ることが可能だが、南側の道路からは段差を登って庭に入り、さらに庭から北の駐車場に出るところにさらに段差がある。その記憶から、社宅の敷地自体がゆるやかな斜面になっていたことがわかる。しかし、社宅の敷地自体が斜面になっていたような記憶はない。でもよくよく考えてみると、社宅の入り口から敷地の奥を眺めたときの景観が、確かに緩やかな上り坂になっていたような感じもする。ああそういえば、坂になってた!坂になってることがわかる絵をひとつ思い出した! というか坂になっていないとつじつまがあわない。
つじつま合わせで景観を再構築するのはすこし危険な気もするが、そういうところから偶然紐解ける記憶もあるし、使える情報は何でも使って景色を作り上げていくしかないのだろう。道路から庭の、庭から駐車場の段差がどれくらいかはなんとなく覚えているから、その情報から1棟あたりの高低差が導ける。社宅の敷地には南北に4棟分の家の並びがあったので、そこから敷地全体の高低差もわかるはず。そういう情報がわかってくれば、絵を描くときに細部がわからなくても「ここはこうなっているはず」という感じで描き込むことができるようになる。
そういう作業を突き詰めていったら、そのうち見たことのない情景や夢の中でしか見れない景色なんかを、さらっと描いたりできるようになったりするんだろうか。というか、そういうことができるようになりたいな。