虫の挨拶


こないだの週末のこと、所沢で寄った本屋さんでのこと。


その本屋さんは出入り口が手押しで開くタイプの扉になっていて、重いガラスの扉を押したり引いたりして開けて出入りするんだけど、私が本屋を出ようとした時、ちょうどすこし先に出た人が開けたドアが閉まるところだった。
で、片側の重いドアが元の位置に納まろうとした瞬間、どこからともなく店内を飛んでいた虫?が、ものすごいタイミングの良さ(悪さ)で閉じた扉と閉じてた扉の間に挟まった。ぴったりと。そして見えなくなった。
私はそれを見て「ヒエーーーッ」と心の中で叫んで、すぐさま扉を押し開いた。
そしたら、虫は何事もなかったかのように隙間から飛んで出てきた。そのシルエットは、アシナガバチみたいなやつだった。私はほっと胸をなでおろした。あー良かった、生きてたんだと。
そして本屋から出て扉から離した手の甲に、ふと何かがぶつかった。私はヒィッと手を引っ込めた。それはさっきのアシナガバチっぽい虫だった。私と共に店外に出た虫は、すぐにどこかへ飛んでいって見えなくなった。
私は一応刺されていないか、自分の手の甲を確認した。
もちろん、刺されてなんかいなかった。


あの虫の手の甲へのタッチは、あの虫なりの挨拶みたいなものだったのではないかと思っている。