勇者の孤独と絶望、奇跡と再会について

今日仕事の帰り、電車の中で「Dragon Quest IV」のエンディングについて考えていて、自分でも馬鹿だなと思うのですが、思わず泣いてしまいました。
ここから先はネタばれを含みますので、まだドラクエ4を解いていない人は読まない方がいいと思います。












私がはじめてドラクエ4を解いたのは大学を卒業して夜中のバイトで生活していた頃です。なのでもうずいぶん前のことになりますが、ドラクエ4のエンディングは当時からとても気に入っていて、ラスボスを倒すところからスタッフロールまでをビデオにとったりして、何度も繰り返し見たものです。音楽と絵だけで語られる主人公達のその後の様子がとても好きでした。
それくらい好きだったので、ドラクエ4がプレステ用にリメイクされるという話を聞いたとき、私が一番心配したのは、あのエンディングが変わってしまうのではないか、ということでした。
ドラクエ4のエンディングは、当時のハードの事情もあったのでしょうが、とてもシンプルなものです。ラスボスを倒して、小さな空の城で人々と話をして、城の外に出ると、もう一切操作はできません。その後は、ただ音楽を聴きながら、主人公達がそれぞれの街に帰っていく様子を見るだけのエンディングでした。
私はそのシンプルなエンディングが好きだったのですが、ドラクエ5以降のそれはだんだん増長していく傾向にあり、またムービー等で過剰な演出があたりまえの最近のゲームの流れの中で、あの音楽と絵だけで「見せる」シンプルなエンディングを本当にそのまま再現してくれるのだろうか、ということがすごく心配だったのです。
しかし、リメイク版のドラクエ4をクリアして、それが余計な心配だったことに気づきました。むしろ、リメイク版のエンディングの方をみて、私は初めてドラクエ4のエンディングの本当の意味を理解できた気がしたのです。
そのきっかけになったのは、エンディングのなかに追加された、とても小さな演出でした。それは、主人公が一人、故郷の村に辿り着いた先の部分で、オリジナル版では村の中央で立ち止まるだけだけだったのですが、リメイク版ではそこで主人公が疲れきったようにがっくりと腰をおろし、首をうなだれるのです。これを見たとき、私は胸がふるえました。そして気がついたら自分の目から涙があふれていました。


ドラクエ4のエンディングの流れを説明します。
まずラスボスを倒し、マスタードラゴンに助けられて天空の城へ帰った勇者たちは、気球に乗ってそれぞれの仲間の旅立った町や村を巡りながら別れてゆきます。ライアンは王宮戦士ですから自分の守るべき王の居る城へ戻り、トルネコは旅の途中で手に入れた自分の店で家族と再会し、アリーナ姫たちは魔法の解けた自分の城へと帰り、ミネア姉妹は自分の親の眠る故郷の村ある墓にお参りをしてから、以前踊り子として暮らしていた街に戻って皆の歓迎を受けます。これらの様子がその場所に縁のある音楽にあわせて言葉なしに語られます。
主人公を除く勇者たちには皆、帰るべき場所があり、祝福してくれる仲間がいます。しかし主人公にだけはそれらがありません。主人公の村は旅立ちの直前に滅ぼされています。村人は誰一人残っていません。廃墟と化した故郷の村に独り帰り立つ勇者の孤独。主人公はやっと辿り着いた自分の村をゆっくりと歩きます。そしてときどき立ち止まってはあたりを見回します。しかし、いくら見回してもそこは廃墟です。壊された家、流された血の後が今も残る瓦礫の山、かつては花畑だった村の広場に生い茂る雑草。それらを眺めながら、主人公の胸の中に、勇者としての自分を庇うために死んでいった村の人々の記憶がよみがえります。そのなかには自分と仲良しだった幼馴染の女の子もいました。幼馴染の女の子は覚えたての魔法で主人公とそっくりの姿に変身し、主人公の身代わりに魔物に殺されたのです。


主人公は孤独と絶望に打ちひしがれながら、かつては花畑だった村の中央の草むらに腰を下ろします(そこは「しらべる」と自分の身代わりとなって死んだ女の子の形見のアイテムが手に入る場所でもあります)。長い長い闘いの末に取り戻した平和な世界の中で、主人公はひとりぼっちです。これほど悲劇的なエンディングがあるでしょうか? 主人公はその場でうなだれ、深い溜息をつきます。


しかし、そのとき奇跡が起こります。


雑草が生い茂るだけの広場に突然花が咲き乱れ、その中であの幼馴染の女の子が蘇ります。生き返った女の子と主人公は手をとりあい、抱き合って再会を喜びます。そしてそこへ、さきほど別れたはずの仲間達が現れます。


これでエンディングは終わりです。
最初にオリジナル版のドラクエ4のエンディングを見たときは、ここまで読み取ることができませんでした。リメイク版のあの「うなだれる」演出を見て、私ははじめてあのエンディングの本当の意味を理解した気がしたのです。
滅ぼされた故郷の村にたった一人帰る主人公の気持ちを想像すると、私はいつも泣いてしまいます。こんな私は、やはりどこかおかしいのでしょうか?