歩く日


秋葉原での買い物がわりと早くに済んだので、今日は「歩く日」にした。
今年の夏はアレルギーのせいであまり暑い中をだらだら歩けなかったので、「歩く日」は本当に久しぶりだ。
今日は地図をもってないけど、まあなんとかなるのはわかっている。地図は街のあちこちに立ってるし。とりあえず池袋は西のほう、あっちってわかってればそれでいい。
知らない路地に入り込む。はじめて見る長い階段。私は段差フェチだ。坂道フェチでもある。50段以上はありそうな階段をみあげてわくわくする。階段のふもとには猫までいる。完璧だ。上ったらどっかの神社?に通じていた。
コンビニで菓子パンとお茶を買う。パンを齧りながら歩く。適当にあるいてたら東大の前に出た。こんなとこにきたのは初めてだ。これが東大か。街に立ってる地図を見る。なんか方角間違ってる。北に来すぎた。後戻りするのは癪なので左に折れて方向修正を試みる。なんか近くに植物園があるらしい。うまく行き着けたらいきたい。
交差点に出たら、曲がるのは歩いてみたい勾配のある道だ。多少遠回りでもいい。歩きたい道を選んで歩く。山の手は結構坂だらけで良い。急な坂道を降りたり上ったりすると、いつも懐かしい感じに襲われる。子供の頃住んでた町が、坂道だらけだったからだ。
うまい具合に植物園に行き着く。向かいのタバコ屋で入園券を買う。「おひとりですか?」と聞かれた。当然だ。園内に入ると結構でかい。ひととおりぐるっと回ってみることにする。
中央部にいろんな植物が等間隔で植えられた畑に出る。時期が時期なので終わってしまった花なども多かったが、いろんな種類があって面白い。くねくねS字を描くようにひとつひとつ観て回る。昔社宅にあって私が好きだった木は、イタチハギによく似た葉っぱの木だったとわかる。社宅の周りの空き地に生えてた雑草はだいたいがイネ科のものだったこともわかった。子供の頃よく学校の帰りに引っこ抜いて、むちのようにあちこちぺんぺんたたきながら歩いたやつだ。咲いている花には虫が集まる。ミツバチ、カメムシ、ハエ、蛾、蝶、蟻、アブラムシ、ハナムグリハナムグリなんてすごい久しぶりに見た。おしべとめしべのかたまりの中に頭を突っ込んだまま恍惚として蜜を吸ってるんだろうか、じっと動かない。カメムシは背の模様がなかなか渋くてイカしてた、今風のデザインだ。でっかい樹もみる。そばまで行って幹に触る。樹皮のパターンをじっと眺める。カラスがぎゃーぎゃー鳴いている。
イチョウのそばは臭かった。おばちゃんたちが銀杏を拾ってた。ときどき「ぼとっ」と落ちてくるので結構怖い。楓並木は不思議な香りがした。
奥から歩いてくる猫が! よくみるとすごく汚い。毛が汚れていてごわごわだ。猫と遊びたかったけどちょっと汚すぎるかなぁと思って通り過ぎ、さらに奥に行ったら、今見たのとまったく同じ外見の別の猫が行き止まりの道に座ってこちらを見ている。色から汚れ具合からそっくりだ。行き止まりまでいっても何もなさそうだったし、その猫をおびえさせるのも嫌だったのでそのままでUターンして今来た道を戻る。するとさっきすれ違った猫が道のはしでちょこんとしゃがみ込んだ。私はそばを通り抜けようとする。さわりたいさわりたいさわりたい。猫の目の前まで歩いて立ち止まる。この猫は動作が緩慢だ。眼が目やにだらけでうまく開いてない感じ。年も結構いってそうだ。猫がこちらに気づいたのを確認してから手を伸ばしつつしゃがむ。手のにおいをかいでもらって逃げないのを確認してから、そっと首に触る。もうすこし近づいて背中をなでる。案の定毛がごわごわであちこち固まってしまっている。枯葉がからまっていたので取ってやる。なでる。猫は立ち上がり私の体に横腹をすりよせながら歩き、私の後ろ側に回って身体をつけたまま再びしゃがんだ。どうして猫ってこういうことができるんだろう。私も向きを変えてまた猫の身体をなでる。うれしい。首の周りを掻いてやる。耳に疥癬ができているように見える。そこは直接触らないよう、耳の付け根を掻く。喉仏を触ろうとするといやいやするように頭を前方によじって逃げる。時々「かはっ」と変な感じで喉から息をはくので、喉がおかしいのかもしれない。それ以上喉仏を触るのはやめにして、首の周りと背中をなでる。硬くこわばって汚れている背中の毛。もともとは白猫なのだろうが、全体が薄うく茶色に染まっている感じだ。毛をほぐしてやりたいが、ちょっとやそっとでほぐれそうな状態ではない。無理にしてもかえって痛がりそうだったのでそっとなでるだけにする。ひとしきり触ってからさよならした。
ぐるりと外周をたどりながら歩く。下のほうにある庭園の池には鯉がいっぱいいた。橋の上にたつといっぱい寄ってくる。こういうところの鯉はみんなそうだけれど、でかい。ほかの鯉たちと身体をすり合わせながら寄ってきてくちをぱくぱくする。どうしてもじっと見てしまう。子供の頃、おばあちゃんちにいったとき、どこかの大きな池につれてってもらい、そこで巨大な鯉の群れを見たことがあった。それは子供心に結構ショックな光景だった(なにしろあまりに大きくて黒くて水面を埋め尽くす感じだったので)。今でも鯉に寄ってこられると不思議な気持ちになる。子供のときのような恐怖感はないが、なにかどことなくやっぱりちょっと不気味な感じがする。嫌いではないんだけど。
結局閉園時間ちかくまでぶらぶらしていた。植物園を出たときには相当疲れていたが、池袋にはさらに相当歩かないと着かなかった。でもまあ「歩く日」としてはかなり充実していたので良しとする。すこしは痩せたかな?