白馬へ

今週いっぱいは夏休み。
私は、前から行こう行こうと思っていた場所へ向かって電車に乗った。


以前、友人と小淵沢へ遊びに行ったとき、道中の電車の窓から観た景色ですごく歩いてみたいと思った場所があって、それ以来ずっとそこへ行きたいと思っていた。でも正確な場所をまったく覚えておらず、「高尾から小淵沢までの間にある、右も左もだーっと緩やかな斜面(登り坂)が続く景観の場所」ということしかわからない。また時が経つにつれ以前見たときのイメージは薄れていき、自分でいいようにイメージを捏造してきている気配もある(私はこの時見た風景からイメージを膨らませて「旅先にて」という短文を書いた)。もう一度そこを電車で通ったとして、ほんとにそれがあの時見た風景だとわかるだろうか? そんな不安がずっと私に二の足を踏ませていた。
でも、今回はちゃんと青春18きっぷも買った(ほんとにこのために買った)。これなら、何度でも乗り降りがきくので、間違って下車しても問題はない。しかも5日も猶予があるのだ。これなら何の問題もない。


……ふと気がつくと小淵沢だった。えええーーと私は思った。確かに今朝は4時起きだった(しかも寝たのは1時だった)。ちょっと道中うつらうつらしたところもあった。時間が経つにつれ通勤時間帯に差し掛かりちょっと電車が込み始めて窓の外を見回しにくい状態になったりもした。でもポイントポイントはしっかり見ていたつもりだったのだ。でもわからなかった。私は以前惹かれた景色を再び見出すことができなかった。呆然としている間に電車は小淵沢を出発していた。ま、いいかと私は気持ちを切り換えた。こうなったらいけるところまでいって新しい「面白い風景」を探そうと思った。それでそこが気に入ったら宿泊して気のすむまで歩いてくればいいやと。
私は特になにも調べず乗ったので、自分の乗っている電車の終点がどこかすらしらなかった。朝食も食べずに家を出たので腹も減っていたが、電車はまったく終点につく気配を見せなかった。その電車は、結局のところ、私を松本まで運んだ。


電車を降りる前に車内にあった路線図を見て、松本から先の進路を適当に決めた。おそらく私自身がまだ乗ったことがないといういいかげんな理由で、私は「大糸線」を選んだ。知らない土地へ迷い込んで宿を探して泊まるのもまた一興ではないか。


電車を降り、とりあえず飯の確保をと思いホームの売店で釜飯を買い(釜飯を選んだ理由は私の前に弁当を買ったおねーさんがそれを買ったから)、大糸線の次の電車を調べると、20分後くらいに特急が1本、そのまた1時間後に鈍行が一本あった。特急を使うつもりはないので(要するに余計な金を使う余裕はない)、約1時間半の空き時間ができてしまった。じゃあ、この釜飯をどっか外で食べようと思い改札を出て、駅周辺をうろうろし、案内板の地図を探した。やっと見つけた案内板によると、どうも近所に城があるらしい。松本城だ。じゃあそこで食べようということで松本城までぷらぷら歩く。めっちゃ暑い。噴出す汗とともにだんだんだらだら歩きになる。



着いた。日陰のベンチで釜飯を食べる。食べてる最中遠くに猫が現れたが、遠すぎて写真とれず。残念。


城全体。


コイコイココイコイ


城の周りをぐるっと回ると、もういい時間だった。早足に駅へ向かう。暑い暑い。
案の定時間ぎりぎりだった。汗だくで掛けこんだ電車はなんと2両編成で、おまけに人が鮨詰状態。まさかこんな電車とは……。バッグを抱えて直立不動のまま気が遠くなる。こんな電車で私はいったい何処へ行こうというのか。


乗った場所は車両の一番前だった(そこしか乗れそうなところがなかった)。電車に揺られつつ車内を見渡すと、バスの運賃表みたいな表示板があり、駅名が並んでいる。興味を引く駅名がないかどうか探していると、「白馬」の文字が。白馬? 白馬って、あの白馬か?


私の趣味のひとつは山歩きで(といっても家族向けハイキングコース的な軽いもの)、以前は気が向くと近場の秩父の山あたりをぷらぷら一人で歩きにいっていた。で、当時買った山歩き系の雑誌に「白馬へ登ろう!」という特集記事があり、そこにレポーター?として載っていた女の子の写真がかわいくて(白いTシャツに朱色の短パン、紫のキャップで雪の残る尾根を歩いてたり、真っ赤に日焼けした腿を湖に浸かって涼んでたりとかそういうの)、それに感化されたのか白馬にも変な思い入れがあり、いつか白馬歩きてーとか思っていた。


あの白馬か?


行く!絶対行く!!


ということで目的地は決まった。白馬だ。車掌のアナウンスによればどうやら1時前には白馬駅につけるらしい。到着まで1時間半くらいだろうか。それくらいならまあ立ったままでも大丈夫だろう。私は道中手動で開け閉めする扉の開閉ボタンやら、意外に乗ってくる制服姿の女の子やら(田舎で見る制服姿の女の子ってなぜかみんなかわいく見えるんだよねー)ごつい登山装備の学生風の日焼け男たちを眺めながら過ごした。
電車は途中から「ワンマン」状態に切り替わった。ワンマン状態とは、特定の駅以外で降りる時(たぶん無人駅のこと)は1両目の車両の一番前(車掌のいるところ)からしか降りられない。また、無人駅?から乗る場合は整理券を取って乗車し、降りる場合は車両一番前に設置された運賃箱に料金を入れる必要がある。ようするに普通のバスとおんなじだ。「開閉ボタン」付きの電車は昔寒い地方で乗ったことがあったが、運賃箱を見るのは初めてだった。


白馬駅に着く。とりあえず駅そばの案内所で宿を確保する。3時チェックインとのことだがまだ1時前だ。宿は駅から歩いて20分くらいらしい。まあそこまでは歩いていくとして、チェックインまで結構時間がある。私は目についた土産屋をひととおりまわってみたが、あまり時間はつぶれなかった。喉が渇いていたので喫茶店でもあれば良いのだが、いい感じの店はこの辺りにはなさそうだった。仕方ないので、私は宿のある方へと向かって歩き出した。


「まっすぐ行けば宿だから」と、案内所でもらった地図を見つつ歩いていく。地図によれば、
どうも宿の集中するあたりなら喫茶店とかもあるようだ。逆にいうと、そこへ辿り着くまではほとんど何もないように見える。実際何もなかった。路は広いのだが、街路樹すらない。要するに日陰がないのだ。でも、なぜか涼しい。日差しは強く暑いのだが、風がひんやり冷たいのだ。これは悪くないなぁと思って歩いていると、だんだん汗が噴出し、暑くなってきた。交差点でローソン発見。とりあえず涼むために入る。


ローソンを出てさらに歩くと、やっと宿の集中する区域が見えてきた。今日泊まる宿にも着いてしまったがまだ入れないのでとりあえず通り過ぎ、近くにあるらしいゴンドラ乗り場まで行ってみることにする。
ゴンドラまでの道のりに良さ気な喫茶店を発見。こちらは後で入ることにしてまずゴンドラ乗り場を確認しに行った。中学生くらいの団体(おそらくなにかしらの運動部の合宿の人たちと思われる)が乗車券売り場の前に整列している。男ばかりで大変暑苦しい。私は彼らを尻目に売り場の前まで行って料金と運転時間を確認した。置いてあったパンフもいくつかもらった。
先ほどの喫茶店まで戻り、中に入る。客は私一人だけだった。いささか居心地の悪い中、テーブルにゴンドラ乗り場でもらったパンフやら駅の案内所でもらった資料やらを広げて明日の計画を練った。今の季節だと、ゴンドラは朝7時から動いているらしい。宿で朝食を食べたらすぐ出発してゴンドラに乗ろう。ゴンドラとリフト2本を乗りついてかなり上までいけるようだ。そこから往復3時間の自然研究路とかいうコースがあったので、それを歩くことにする。明日が楽しみだ。


3時きっかりに宿へチェックインし、まず温泉に入った。その後、夕食までの時間つぶしに外に出て、さっき見かけたスキー/スノボ用品屋で山歩き用にウエストバッグを買う。トートバッグで家を飛び出したため、両手の空く山歩き用の小物入れが欲しかったのだ。店のおじちゃんが値段をおまけしてくれる。嬉しい。


宿のバブリーな夕食は予想外にうまかった。ただ、一人前にしては量が多すぎると思う。でも全部平らげられるくらいにうまかった(ちょっと無理したが)。部屋に戻り「旅館といえば煙草だろ」とつい買ってしまったPeaceを吸ってまったりする。しばらくしてからまた風呂に。その後はやることもなく、TVを見る気にもならなかったので、すぐ寝てしまった。