油虫退治

アイツの話です。嫌いな人は読まないほうがいいです。


カタカナ表記で書くのも嫌なので漢字で書いてますがアイツのことです。出たんですよ。部屋から帰ってきたら、なんか黒いのが台所の床にいるのに気づいたんです。もちろん気づかなかった振りです。アイツじゃないかもしれませんし。なるべく台所にいく用事を我慢して……たんですがお茶も飲めないので仕方なく台所の電気をつけたら……アイツでした。憎いあんちくし……もとい、怖いアン畜生です。でかいんです。黒々と。絶対直視しません。怖いので。直視しませんが、あれです。こないだそばに来たやつです。こいつかなりのご老輩っぽくて(なんでかうちにはよくでかいのが居着く)、動作が遅いんです。それがまた嫌なんです。しかも脅かしても逃げないんです。私から遠ざかるように逃げて私の視界から外れてほしいのに、こいつは何故か私に向かってくるように動き出し、もっとも近い「身体を隠せそうな場所」にもぐりこもうとします。緩慢な動作で。私は自分ですら聞いたことのないような声を発しつつばたばた逃げます。そして、だん!とかそのへんのダンボールかなんかを蹴ってやつを脅します。そしてそれは起きました。3回くらいの蹴りでのことでした。私の蹴ったダンボールがその向こうにあったトイレットペーパーのパックに衝撃を伝え、トイレットペーパーのパックがその向こうにあったごみ箱(昔勝った炊飯器の入ってたダンボール箱)に衝撃を与えました。そしてそのときまさにそいつがそのごみ箱の下に頭を入れようとしていたみたいなのです。直視していないのでよくわからないのですが、どうもやつは頭をごみ箱の底に捕らえられてしまったような形になったようです。こころなしか、やつの下半身がナナメに浮いている気がします。私が間接的に伝えた衝撃が、やつにとって一番嫌な形で伝播してしまったみたいです。やつは頭を動かせないその奇妙な格好でしばらくかさかさと足を動かしていたのですが、そのうち静かになりました。私はその恐ろしい光景を直視しないように眺めていたのですが、やつが動かなくなったことを確認すると、とりあえず明日まで放置することにしました。だって、やつらの生命力はものすごいんです。なめたらいけません。いまごみ箱を持ち上げたら、きっと一瞬で生き返ってものすごいスピードでこちらに攻めてくるかもしれません。あなどったら負けなのです。私はその夜中おしりを持ち上げた格好でじっと動かないそいつを必死で視界に入れないように、でも視界の隅でまだそこにいて動かないことを確認しつつ、振るえながら過ごしました。ごみ箱にごみを捨てるのも嫌だったのでなるべくごみを出さないように、部屋のごみ箱を使うようにして過ごしました。


そして翌朝です。私はやつの様子を見に行きました。やつは昨日のままの格好で動きませんでした。やったのか?と私は思いました。実は私はある時から、こやつらの安易な殺生はしないと心に誓っていました。なのでちょっぴり心が痛みました。殺そうと思ったわけじゃないんだ、と思いました。脅かして、向こうに言ってほしかっただけなんだ、と。私はやつらの殺生を諦めていますから、やつらが私の部屋に居座ること自体も仕方ないと思っています(すごく嫌ですが)。ただ、私はやつらに私の視界に入ってきて欲しくないだけです。極端な話、私の見てないところで何してようが構いません、ただ、後生だから私の視界に入ってこないで欲しいと願っているだけです。そんな私ですから、ちょっぴり心が痛んだのです。そしてちょっとうきうきしました。やったのか? この俺が? 間接的にとはいえ? 俺の一撃によって? やつが? やつがとうとう? ……
私は紙袋でやつを回収することにしました。なるべく直視しないよう西ながら私はやつのおしりに紙袋の口のふちを近づけあてがいました。そしてそっとごみ箱をもちあげ……うわlkjかえ2140−


……生きてました。やつは逃げ出したのです。でもそうとうダメージを追っているようで、もともと緩慢だった逃げ方が、もうやばい感じにスローリーでした。……これなら! この遅さなら紙袋で回収できるかも! 私は勝てそうな気がしました。そして紙袋のふちをおしつけて紙袋の中にいれようとがんばっていたのですが、やつも必死に別のダンボール(しかしダンボールばっかだな)の下に頭を入れ込んで逃げようとします。これでは……このやわい紙袋のふちでは埒があかない……そう思った私は捨てようと思って固めておいたずっと前に食ったプリングルスの空き筒?を取り出しました。これならふちも固く、回収も簡単そうです。私はがんばりました。やつを直視しないようにプリングルスの空き筒?をやつの身体に押し付け続けました。そしてとうとうひっくり返ったやつが空き筒?の中に入りました。私はさっと筒を傾け、やつを(奈落の)底に落としました。そして筒の底でもがいているやつを確かめつつわたわたしながらベランダに飛び出し、アパートの裏の植木の茂み(一応そこは繁りが激しく人が入れないような場所です)にやつを放り捨てました。そしてすぐ部屋に入りました。私の身体は震えていました。勝った、と思いました。殺さずに部屋から追い出せた……これは私にとっての勝利に他なりません。やった、やったよ! ボク、とうとうあいつに勝ったんだ! うるさいよ。